introduction
水素製造プラントのEPC
(設計、調達、建設)
カーボンニュートラル社会の
実現に向けて、注目の高まる
水素エネルギー。
山梨県では、官民のタッグによる
国内初のP2G※事業会社が稼働した。
前例の少ない水素の
製造・貯蔵プラント。
東京パワーテクノロジーはいま、
その実現に向けて挑戦を開始した。
Power to Gas:再生可能エネルギーなどの電力を活用し、水の電気分解から水素を製造する技術
member
-
戸田 寛康
2018年入社
土木建築事業部
建築エンジニアリンググループ
理工学部 海洋建築工学科 -
坂田 美佳子
2017年入社
技術部 設計グループ
バイオニクス学部 機械工学専攻 -
西廣 雄仁
2011年入社
事業開発部
事業企画グループ
農学部 森林科学科
chapter 01
可能性に満ちた、水素という「期待」。
世界中を席巻するカーボンニュートラルの潮流。ここ日本で、とりわけ大きな期待を集めているのが「水素」だ。水素は、エネルギーとして利用してもCO2を排出しない。また、太陽光発電の余剰電力など、さまざまな資源から生み出すことができる。日本にとっては、貴重なエネルギーの自給手段にもなりうるのだ。
2022年。山梨県、東京電力ホールディングス、東レは、共同出資によって国内初のP2G事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立した。再生可能エネルギーなどの電力(Power)を活用し、水の電気分解から水素(Gas)を製造する技術のこと。
YHCにおいては、水の電気分解によって水素を製造し、熱や蒸気を契約先へ供給することを指す。そのために必要な実証プラントのEPC(設計・調達・建設)を今回任されたのが、ほかでもない東京パワーテクノロジーだ。電解槽などの設備は専門メーカーがつくる。それを格納する建物やコンテナ、機能させるための補機などを用意し、ひとつの「システム」としてプラントを完成させるのが当面の目標である。

chapter 02
前例がない。だからこそ先駆者になれる。
なぜ、東京パワーテクノロジーに白羽の矢が立ったのだろう。カーボンニュートラル関連の新事業を担当する西廣によると、東京電力グループによる「内製化」がキーワードだという。「外注すればコストが膨らみやすくなりますし、なによりノウハウを内部に蓄積することができない。だからこそ、東京電力グループであり、数多くの発電関連設備で実績を重ねてきた私たちに引き合いがあったのだと思います」。
東京パワーテクノロジーにとっても、このプロジェクトはまたとないチャンスだと西廣は思った。磨いてきた技術を活かし、新たな事業領域を切り拓いていく——いまの東京パワーテクノロジーにとって最重要ともいえるテーマだが、それにみごとに合致している。しかも、水素はカーボンニュートラル社会の有望株だ。市場の競争も激しくなるだろうが、このプロジェクトを完遂すれば大きなアドバンテージが生まれる。ただしハードルは高い。当然ながら、水素製造設備のEPCについての知見や専門部隊があるわけでもない。いかにしてノウハウを集め、実現させるか。その難問を解くために、各エンジニアを招集。若手ホープとして抜擢されたのが坂田と戸田だった。


chapter 03
図面にも人にも向き合ってこそ、設計。
「人が足りない。ぜひ力を貸してほしい」。そう請われてプロジェクトに加わった坂田だったが、はじめは水素といわれてもピンとこなかった。カーボンニュートラルといえば、坂田にとってはバイオマスや風力発電の印象が強かったのだ。しかし、次第にそのポテンシャルがわかってきた。会社の未来に直結しそうな、大きな一歩。そればかりではなく、自分自身がエンジニアとして成長するための貴重な経験になるかもしれない。
坂田が設計を担当する小型のP2G設備は、チーム内では「ワンパックモデル」と呼んでいる。その名の通り、ひとつのコンテナ内にプラントとして機能するためのすべてを詰め込まなければならない。トラックや船による輸送が前提なので、コンテナ自体はかなりコンパクト。限られたスペースの中で、機械をはじめとする格納物の「部屋割り」をどうするか。メンテナンス用の扉をどこにつければいいか。機械の搬入口をどこに開けるか——検討すべきことは多いが、前例がないゆえに「こうなるはずだ」という想定を信じて動くしかない場合もある。
そうした設計上の苦労に加え、調整業務の多さも坂田にとっては壁だった。発注元であるYHCや設備メーカー、さらに社内のエンジニアなど、さまざまな立場の人々と議論を重ねなければならない。図面だけではなく、人とも向き合わなければ設計は前に進まないのだ。知識やスキルの不足に直面するたび、坂田は尻込みすることなく各所に教えを乞い、自分のものにしていった。「できない悔しさは、できるようになる喜びにつながる」。そんなふうに、前向きに捉えながら。

chapter 04
入社4年目の、第一人者。
坂田が奮闘する一方で、戸田は大型の設備を収める「格納庫」の設計に打ち込んでいた。入社4年目の若手ながら、意欲は十分。社会的注目度の高いプロジェクトだけに力が入っている。とはいえ、実際に着手してみるとやはり一筋縄ではいかない。そもそも「水素を製造・貯蔵する建物」を経験したことのあるエンジニアが、社内にはまだ一人もいないのだ。戸田自身が第一人者として知見を深めつつ、設計の取りまとめ役として各所との合意をつくっていかなければならないのだ。戸田の仕事をざっと眺めると、そういった条件整理が7割ほどを占める。
紆余曲折はあるものの、戸田はこのプロジェクトを心から楽しんでいる。特に面白さを感じるのは、「さまざまな人と関われること」だと戸田はいう。「たとえば事業計画を手がける西廣さんのような、会社の将来にまで届く視点の高さ。こうしたプロジェクトに参加したから触れることができました。自分にとって、大きな収穫だと思っています」。

chapter 05
水素への期待は、東京パワーテクノロジーへの期待。
坂田と戸田の手がけるプラントは、それぞれ2023年と2024年に試運転を予定している。うまくいけば大きな成果を残すが、それがゴールのすべてではない。「坂田も戸田も、もちろん僕も、とても苦労しながら進めているプロジェクトです(笑)。だからこそ、得られた知見を標準化して、同じようなプロジェクトを次々に受注できる状態をつくりたい。そう思っています」。
実際にいま、相談という形ながら、新しいプロジェクトの話が持ち込まれはじめているという。東京パワーテクノロジーは、もともと発電設備のO&M(運営・維持)についても数え切れないほどの実績がある。EPCからO&Mまで——つまり、0からプラントを立ち上げ、末永く維持していくまでのすべてを期待されているのだ。「O&Mについてはこれから参入するかしないか……という段階ですし、寄せられる期待がちょっと過剰かな、と思うこともあるのですが(笑)。その期待に追いつけるように、このプロジェクトを大切に育てていきたいですね」。
カーボンニュートラルと同時に語られることも多い「水素社会」。その到来が実現した時、世の中にエネルギーを送り出しているのは東京パワーテクノロジーのプラントかもしれない。


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